ほとんどの学習者がぶつかる現象があります。語彙は増えているのに、話せるようにならない。8000語まで来ても、口から出るのは同じ数パターンだけ。
これは根性の問題ではありません。覚えている単位が違うのです。そしてこのことは、言語学がすでに測っています。
数字:58.6%
2000年、Erman と Warren は実際の言語資料19本を手作業で分析し、そのうちどれだけがあらかじめ用意されたかたまり(prefabs)——文法から一語ずつ組み立てたのではなく、丸ごと取り出されたもの——なのかを判定しました。
答えは、話し言葉で58.6%、書き言葉で52.3%。
その後のコーパス研究は別の方法で数え直していて数字には幅がありますが、方向は同じです。日常会話は、あらゆる文体の中で最も「既製品率」が高い。7割近くという分析もあります。
この現象には名前があり、lexical bundles(語彙のかたまり)と呼ばれます。Biber らが1999年の *Longman Grammar of Spoken and Written English* で提示した概念で、会話に繰り返し現れる連なりは、多くが4語前後の固定的な組み合わせでした。
この数字が自分に関係する理由
ネイティブの発話の半分以上が丸ごと取り出されているなら、「語彙+文法=話すこと」というモデルは、最初から実態と違っていたことになります。
2つの経路を比べてみます。
- ネイティブ:言いたいことがある → かたまりを取り出す → 言う。1ステップ。
- 今の自分:言いたいことがある → 日本語を思い浮かべる → 英単語を探す → 構文を考える → 冠詞と時制を確認する → 言う。5ステップ。どこでも詰まる。
問題は速度ではなく、経路が4つ長いことです。そして単語を増やしても、3番目の選択肢が増えるだけで、ステップは1つも減りません。
「全部わかるのに何も言えない」という状態の正体もこれです。部品を貯めていて、必要なのは完成品なのです。
何を覚えるか
単位を「語」から「かたまり」に変えます。優先度の高い順に4種類。
1. 文の出だし(頻度が最も高く、最優先) I don't know if… / Do you want to… / I was going to… / Are you going to… / What do you think about… / Is it okay if… 会話コーパスでこの種が突出するのは、これが文の始まりだからです。始まってしまえば、続きは格段に楽になります。
2. つなぎ・ぼかし I mean… / You know… / sort of / kind of / or something like that / Let me think 省くべき無駄と思われがちですが、逆です。ネイティブが自分のために考える時間を作る装置です。これがないと、詰まるか、保たない速度に自分を追い込むかのどちらかになります。
3. 反応 Oh nice. / That's rough. / No way. / I know, right? / Fair enough. 考えずに出るほど短く、それでいて「聞いてもらえている」かどうかを決めます。
4. 場面ごとの機能表現(1場面に1〜2個) Could you hold for a moment? / Sorry, I didn't catch that. / I'd better let you go.
入れ方
3つ。どれも地味ですが、省けません。
- 丸ごと覚える、分解しない。
That reminds me — I need to…で覚える。remind=思い出させるでは覚えない。入れた形のまま出てきます。 - 黙読ではなく声に出す。かたまりの価値は取り出す速さで、速さは発声の反復でしか作れません。10回読むより3回言う。
- 自分の文に入れて、もう一度。例文に貼りついたまま覚えると、取り出すとき例文ごと出てきます。
「自分に足りないかたまり」の見つけ方
上の一覧は出発点にすぎません。もっと効くのは、自分の表現の穴に決めさせることです。
言いたいことを思い浮かべる → 今の実力で言ってみる(ぎこちなくて構いません)→ ネイティブならどう言うか見る → それを1つのかたまりとして、声に出して3回。
順番が肝心です。先に自分で絞り出し、あとから答え。その差こそが自分に足りないかたまりで、差のところで覚えたものは残ります。最初から答えを見た回は、ほとんど何も残しません。
MirrorSay(ミラーセイ) はこの順番でできています。自分の文を言う → ネイティブの言い方が出て読み上げられる → シャドーイング → リズムを単語ごとに比較。貯まるかたまりは全部、自分が本当に言いたかった内容から出てきます。
同じ問題の別の面:英語が口から出てこない本当の理由、シャドーイングは本当に効くのか。
参考文献
- Erman, B., & Warren, B. (2000). The idiom principle and the open choice principle. *Text*, 20(1), 29–62.
- Biber, D., Johansson, S., Leech, G., Conrad, S., & Finegan, E. (1999). *Longman Grammar of Spoken and Written English.*(lexical bundles の出典)
*MirrorSay(ミラーセイ)は無料の英語スピーキング練習アプリです。1文言うと、ネイティブの言い方を映し、そのままシャドーイングできます。登録不要、音声は端末の外に出ません。*
